ソ連軍 装備サスペンダー・初期型 (実物)

冷戦時代のソ連軍で広く用いられた戦闘用装備サスペンダーです。

 

 

形式としては初期型に当たるもので、資料では1956年規定から存在が確認できます。

後の物と比べると、金具類が金属地金そのままのシルバーである点、用途不明のDリングが付属する点が特徴です。

 

 

このサスペンダーと対になる装備ベルトは、バックルが金属地金のアルミ色の初期型で、主に「ルバシカ」と呼ばれる詰襟軍服の戦後生産型と組み合わせて使われたようです。

 

 

第二次世界大戦から戦後10年あまりの間は、ショルダーストラップでたすき掛けしたバッグ類を装備ベルトで締める、という装備体形でしたが、サスペンダー導入により冷戦期のソ連軍の新しい装備一式が改められることになります。

 

 

サスペンダー本体のベルト状の部分は分厚いコットン織りベルトの表面をビニール質の塗装コーディングで仕上げられた合成皮革製です。

 

 

裏面は塗装されておらず、コットン素材が露出しています。

折り曲げ縫いされた部分は薄い革で当てがされている等、必要な部分には妥協のない、丁寧な作りが見て取れます。

 

 

両肩には別パーツのパッドが取り付けてあります。

パッド中央に位置するギボシ付きストラップは、メショク(背嚢)を背負った際に、背負い紐を通して固定する為の物です。

 

 

このパッドも合皮製ですが、裏面にフェルト地が貼り付けてあり、わずかながらクッション性を持たせた作りです。

 

 

サスペンダーの手前左側のストラップと、背面ストラップの末端に金属製のDリングが取り付けてあります。

装備品を組むにあたって全く必要性のない部品ですが、前述の規定に添付された図説では、このリングに連結するガスマスクバッグが描かれています。

実際にはそのような仕組みの装備品は存在しない為、本来は支給の方向で開発されていた物がなんらかの不都合が生じて生産に至らず、対応する金具のみが残ったままになってしまったのではないかと思われます。

 

 

これらDリングについては、その後1973年製造の後期型から廃止されています。

 

 

背面はY型となっており、背骨に沿って1本のストラップが配置されています。

 

 

背面ストラップには更に装備縛着用ストラップが重ねて配置してあります。

このストラップは、もっぱらパラトカ(ポンチョ)を丸めて挟み込むために用いられました。

 

 

サスペンダーの着装状態です。

装備ベルトのバックルは、サスペンダーと同じつや消しシルバーで、のちに保護色に塗装された物に置き換えられていきました。

 

 

写真では隠れてしまっていますが、背中側サスペンダーストラップの端にDリングが付いています。

ソ連軍では軍服の上衣のシワは、背中の中心に纏めるように指導されていました。

例えば同時期の自衛隊では、上衣のシワは両脇に引っ張り纏めるよう統制されていたり、各国ごとの規定の違いが見られ興味深いです。

 

 

いわゆる初期型と後期型を比較して見ます。

右が初期型で、左が後期型です。

 

 

基本的な構造は全く同じで、違うのはもっぱら金具の表面処理が地金のままだったのを、保護色塗装されるようになった点です。

 

 

肩パッドの構造もほぼ違いはありません。

 

 

使い道のなかったDリングは、後期型では廃止されています。

 

 

背面の形状も殆ど変わらず、サイズ調節金具の塗装処理と、Dリングの廃止が外見上の違いです。

 

 

後期型では、折り曲げ縫い部分の革の当て布は廃止されています。

コレクター視点では初期型・後期型など分類されるサスペンダーですが、実際に支給される兵士にとってはどうでもいい事だったと思われます。

また、これら初期型とされるサスペンダーや装備ベルトは、仕様改定後も一部工場では引き続き生産・支給されていたようで、かなりの時期まで混在していたと思われます。

 

 

最新情報をチェックしよう!