これは、戦時中に空襲に備えて民間向けに製造、支給されていた「十七年式防空用防毒面」です。
多くの家庭で常備されていたらしく、現在でも多数現存しております。
民生品らしく、ミリタリーサープラス業界よりも、古物商や蚤の市などで見かける事の多い一品です。
私が所有のものは、友人を介して譲り受けたものですが、経年劣化が激しく、保存状態は悪いです。
全体がヒビ割れている上、ゴムが溶け出しているので下手に触るのもためらわれます。
当然着用は不可能ですし、どのみち合わせる服もありませんが、時代の資料としては充分得るものはあります。
全体に造りは大変簡素で、全国民に行き渡らせるべく生産性を重視したのがよくわかります。
携帯用のバッグ等はなく、ボール紙でできた筒に収納して保管するようです。
長期間、収納したままになっていた為か、着装できるほどの柔軟性は、残念ながら残っていません。
本体には「十七年式防空用防毒面」との記載があり、このアイテムが空襲に備えて用意されたものであることが確認できます。
十七年式ということは、おそらく昭和17年制式ということでしょう。
陸海軍の制式名称基準とは異なることからも、民間向けの製品とわかりますね。
装着時に締めるストラップは本体が面体と同じゴム製で、基部は綿布、調整金具は樹脂製です。
非常に簡素な作りであり、新品の状態でも、あまり厳密な気密性は期待できないでしょう。
吸気口には蓋が付属しています。この蓋は、現代のプラスチック樹脂と質感はほとんど変わりません。
フィルターの性能は不明ですが、見た感じでも、あまり高い性能は期待できない印象です。
火災時に発生する有毒ガスを防ぐのが目的でしょうから、活性炭が詰められていたりするのかな?と思いますが、分解して中身を調べるのはさすがにもったいないですね。
もう少し状態がよければ、資料用に着装状態も記録できたのですが、とても実用出来そうな状態ではありませんでした。
全体に極めて簡素な作りの防毒マスクですが、こんな頼りないアイテムに命を託さざるを得ない現実を生きた日本人が数多くいたのも事実です。
実際に当時の物を手にとって眺めていると、かつての日本に思いを馳せる事しきりです。
以上、ミリタリーコレクションというよりも、郷土資料館の展示物が似合いそうな一品の紹介でした。