ベトナム陸軍が現在運用している「K17迷彩服」です。
名称が示す通り、2017年に制式採用された迷彩服です。
ベトナム人民軍では迷彩服の生地やデザインが違う「軍官用(士官)」「士兵用(下士官兵)」の2種類に分けて支給されています。
今回紹介する物は「軍官用」です。
また、迷彩パターンはそのまま、色味を変更した物が、「空軍」や「海軍(陸戦隊)」等でも使われています。
襟章を取り付けた状態です。
「K17迷彩服」の導入にあたり、襟章も専用の「K17襟章」が採用されました。
「K17」は襟章をベルクロ式とし、あらかじめ台座を縫い付けてあります。
その為、裏面がベルクロの襟章が新たに導入されたわけです。
画像で一目瞭然ですね。
折り襟状態です。
裁断は開襟向きに見えますが、実際の運用では第1ボタンまで留めている例も少なくありません。
また、実際に着用してみても、折り襟の状態で襟ぐりに余裕がある為、見た目ほど暑苦しく感じません。
開襟状態です。
基本的にはこの状態がデフォルトと思われます。
「K17襟章」は、当初はコットン系の生地で芯を包んだ台座と黄色の刺繍で作られていましたが、近年では従来の「K08」と見た目の変わらないフェルト台座と金色ピンの組み合わせに変更されています。
これが、材料の在庫処分の為の一時的な物か、製造コスト見直しによる根本的な方針変更かは残念ながらわかりません。
「K07」から引き続き、「ベトナム人軍」と表記された臂章と胸章が縫い付けてあります。
軍官用迷彩服には、胸と腰にそれぞれ2箇所、合計4個のカーゴポケットが設けてあります。
また画像のように、胸ポケット上部に、名札と胸章が縫い付けてあります。
名札はベルクロ台座が縫い付けてあり、簡単に取り外せます。
未使用品なので無地ですが、実際の軍隊では着用者の氏名が記入してあります。(おそらく白糸による刺繍)
胸章は臂章と共に「K07」の配備途中から導入された物で、デザインの変更はありません。
肩にエポーレットが設けてあります。
「K07」のようなボタン留めは廃止されています。
画像のように両端が縫い付けてある為、完全にデザイン上の装飾となっています。
胸ポケットのフラップはベルクロ留めで、従来のボタン留めより使いやすくなっています。
カーゴポケットらしく、容量はそれなりに確保されています。
ポケットの側面マチ部分はメッシュ素材が使われており、通気性も考慮されています。
腰のカーゴポケットは、胸ポケットよりひと回り大きいです。
胸ポケット同様、フラップはベルクロ留めです。
容量も多く、実用性が向上しています。
側面マチ部分も、通気性を考慮してメッシュ素材が使われています。
ウエストには、装備ベルトを固定する為のタブが設けてあります。
前合わせは、合計5個のボタンで閉じる作りです。
第1ボタンから第5ボタンまで、全て表地で隠れるようにボタンホールが設けてあります。
ボタンは焦げ茶色の樹脂製で、他のベトナム人民軍被服にも用いられている規格品です。
最後までボタンを留めた際の裾の可動範囲は画像の通りです。
動きやすさを阻害しないように位置決めされています。
ジャケット裏地の状態です。
生地が薄めのためか、表の迷彩柄がうっすら透けて見えます。
内側に縫い付けてある製造工場タグです。
軍正規工場の2018年製造品で、サイズ表記は「5A(細身のLサイズ位)」です。
上腕部にあるボタンは、裾をまくった際にずり落ちないように固定する為の物です。
肘には当て布による補強がされています。
手首はカフスが設けてあります。
カフスは「K07」のボタン留めから、ベルクロ留めに改良されています。
ベルクロ式に変更したことで、手首のサイズに合わせて留め具合を調整できるようになりました。
ジャケット背面の様子です。
複雑な迷彩パターンと色味の鮮やかさで、ちょっと裁断がわかりづらいですね。
K17迷彩ズボンです。
「K07」からのデザインの変更で目に付くのは、カーゴポケットが追加されている点です。
ズボンのウエスト周辺の形状です。
前合わせは一番上までボタン類は露出せず、ベルトループが設けてあります。
前合わせ部分はジッパー式で、最上部のみボタンと金属フックによる固定方式となっています。
「K07」までの従来型の軍服ではボタン留めでしたが、ジッパースタイル式に変更されたことで、利便性が向上しています。
ズボンの内装の状態です。
ズボン内側にタグが縫い付けてあります。
軍指定の正規工場のメーカー・タグで、2018年製とわかります。
また、サイズ表記は「5A」で、1990年頃まではこれが最大サイズでしたが、近年では「6B」という、従来は無かった高身長・太目の体格向けの軍服も製造されており、ベトナム国民のスタイルの変遷が伺えます。
各ポケットの袋部分には、グリーン単色生地が使われています。
K17迷彩ズボンの背面形状です。
カーゴポケットが追加された一方、尻ポケットは廃止されています。
兵士からの要望を汲んだ改修点でしょうか。
ズボンの側面形状です。
迷彩柄で分かりづらいですが、スリットポケットの直下にあるカーゴポケットや裾留めボタン、膝の補強当て布の様子が確認できます。
ズボン両側面にあるスリットポケット(物入れ)の様子です。
ポケット内部はグリーン単色です。
ズボンのベルトループに沿って、ウエストのサイズ調節機能が設けてあります。
金属製のバックルでサイズを微調整できます。
ウエスト調節を最短にした状態です。
ウエスト調節を最長にした状態です。
両側面合わせるとだいぶ幅の調節ができるので、仮にズボン用ベルトが無い状態でも、ずり落ちることなくズボンを履くことができます。
ズボン側面のカーゴポケットの形状です。
中央にプリーツが設けてあります。
ポケットフラップはベルクロ留めで、簡単に開閉できます。
ポケットの容量は多く、実用性も高いです。
ズボンの裾は、ボタン留めですぼめる事ができます。
くるぶし丈のズック靴の利用にあたっては、欠かせない機能と言えます。
「K17軍官迷彩服」は、ジャケットの袖とズボンの裾をロールアップする事で、半袖・半ズボン状態にする事ができます。
ジャケットの袖の上部に、ボタンが縫い付けてあります。
ジャケットの内部にタブが縫い付けてあり、袖をロールアップした後、このタブをボタン留めして、ずり落ちを防止します。
固定タブの使用状態です。
画像のように、両袖を綺麗にまとめる事ができます。
なお、士兵用迷彩服の袖には、この固定タブはありません。
ズボンにも、膝の辺りに裾留めボタンがあります。
画像のように、ズボン内側にタブが縫い付けてあります。
裾をロールアップし、タブをボタン留めした状態です。
足が濡れないように、ハーフパンツ型で使えます。
裾上げ状態で画像のような感じです。
ロールアップ完了し、徽章を完備した状態です。
コントラストの強い迷彩柄と鮮やかなフルカラー・パッチが組み合わさったこの姿に、「ベトナムらしさ」を感じます。
K17迷彩服の軍官用と士兵用を比較して見ます。
下に敷いてあるのが軍官用、上に載せてあるのが士兵用です。
素材の違いから、迷彩色も違って見えます。
デザイン上の一番の識別点はポケットの数で、軍官用は胸と腰の合計2箇所、士兵用は胸ポケットのみ2箇所と違いがあります。
ポケットの構造は共通しており、どちらもマチ部分がメッシュ素材で作られています。
フラップの止め方も同様に、ベルクロ留めです。
襟章の取り付けはどちらもベルクロ式で、台座が縫い付けてあります。
士兵用はなぜかベルクロの全長が短く、縦の幅も襟章よりわずかに長いです。
軍官用は襟章と同寸同型の台座なので、綺麗に貼り付ける事ができます。
エポーレットは両方ともボタンを廃止し、両端を縫い付けてあります。
袖の形状もおおむね同型のようです。
臂章もあらかじめ縫い付けてあります。
並べてみると、デザインや縁取りの仕上げに若干の違いがあります。
これが階級による違いか、製造時期によるものかは残念ながらわかりません。(恐らく階級の違いによる)
軍官用にはロールアップした袖を固定するボタンがありますが、士兵用にはありません。
手首のカフスはボタンに替えてベルクロ留めに改良されています。
軍官用はベルクロの幅があり、留め位置の微調整が効きますが、士兵用はベルクロサイズが小さく調整は難しいです。
なお、襟章用ベルクロもほぼ同寸だったため、士兵用のベルクロ部分は、コスト面で同じ材料の流用がされている可能性があります。
腰のベルト留めループは軍官・士兵共に取り付けてあります。
ジャケット裾の裂き部分も、両方とも設けてあります。
K17迷彩ズボンの比較です。
下が軍官用、上が士兵用です。
前合わせの構造に違いがあり、軍官用はジッパーですが、士兵用はボタン留めです。
一番上が金属フックとボタン留めなのは同様です。
ズボン背面の形状は大差ないようです。
K17では太ももにカーゴポケットを設けた代わりに、尻ポケットが廃止されています。
軍官用、士兵用ともに大腿部にプリーツ付きのカーゴポケットが取り付けてあります。
カーゴポケットのフラップはどちらもベルクロ留めです。
ズボンは両方とも裾上げ時の固定タブがあり、膝辺りに固定用ボタンが縫い付けてあります。
ズボン裾をすぼめるボタンは両方とも設けてあります。
ズボンのウエストの作りも共通で、ベルトループとウエスト調節ストラップ、金属製バックルが設けてあります。
「K17軍官迷彩服」の着装状態です。
迷彩帽は軍官用で、迷彩服と共生地で縫製されています。
一見するとドギツイ印象すら受けるドット迷彩柄ですが、不思議な物で見慣れてくると精悍さすら感じられてきます。
迷彩服上下ともロールアップした状態です。
ムゥ・コーイとの組み合わせは、見た目にも涼やかで実際、暑さ対策には適しています。
ズック靴の下に履いているグリーンの靴下は軍用官給品で、アメリカ軍のパイルソックスと比べると驚くほど軍事色の無い、民生品のような作りです。
特に軍官用の迷彩生地は、薄手ですべすべした肌触りで、化繊の混紡率によるものか、通気性も良いように感じます。
もっとも、肌の露出が多いという事は、日焼けや虫刺されの脅威にも晒されるという事で、使いどころには注意が必要です。
戦闘訓練で目にする機会の多い、「A2ヘルメット」と「官給ピストルベルト」を身に着けた状態です。
着装してみると、ベトナムの風景向けにアレンジされた自衛隊迷彩のような趣で、制式採用されただけあって偽装効果も高いです。
ウエストにはボタン留め式のベルトループ・タブがあり、ベトナム人民軍で使われている各種装備ベルトを通す事ができます。
「K07」では士兵用のみの機能で、軍官用ではウエストを絞る為のサイズ調節タブでしたが、実用性が評価されたのか
「K17」では軍官用・士兵用両方に設けてあります。
ベトナム人民軍ではベトナム戦争以来、半世紀以上ゴム底のズック靴が官給品として使われ続けています。
基本構造は1960年代の中国からの援助装備と大差ありませんが、軽くて使いやすい点やコストが安い点から現在でも主力装備となっています。(軍靴自体は、制服用の革短靴、軍官用のジャングルブーツ等、各種あります)
「A2ヘルメット」や「ジャングルブーツ(布部分が迷彩柄)」も支給が進められているものの、特に帽子に関してはいまだに「ムゥ・コーイ」が広く利用されています。
「K07」から10年振りの更新となった「K17」ですが、全軍更新する前に早くも新型迷彩服の制式化が模索されている状態です。
2018年に複数の試作迷彩服のトライアルがあり「K18」が選定されたものの制式とはならず、翌年には「K19」が導入されています。
「K19」はベトナム戦争当時のアメリカ海兵隊や南ベトナム政府軍レンジャーの使用した「ERDL(リーフパターン)」に似た迷彩パターンで、パッと見、「色味の異なるK07迷彩服」といった趣です。
今後、「K19」が制式採用となるのか、新たな迷彩服が研究されるのか、はたまた「K17」の更新を進めていくのか、先が見えない状況です。