アメリカ軍の「M1910キャンティーン&カバー」です。
本品は第二次世界大戦当時の実物です。
M1910キャンティーンは第一次世界大戦で使用されたのを皮切りに第二次世界大戦、さらに朝鮮戦争でも使用されています。
第一次世界大戦から第二次世界大戦ではカーキ色のカバーが使われましたが、大戦半ばの1943年頃からOD(緑褐色)に変更されました。
今回紹介するキャンティーン・カバーは通称「ブリティッシュメイド」と呼ばれる、イギリス製のアメリカ軍装備です。
大陸反攻作戦のための大増員に対処する為、アメリカ軍の個人装備品は米国本土のみならず、同盟国のイギリスでも製造されていました。
イギリスではイギリス製の素材でアメリカ軍の規格に合わせて縫製されていましたが、各部に独自のアレンジや省略が見られます。
外見上は、素材のカーキ色がイギリス軍装備と同じ物で、正面の縫い目がアメリカ軍純正品より少ないのが特徴です。
ただ、米軍の規格にのっとって製造はされているようで、カバー内部にもアメリカ製同様、凍結防止用のパイル地が縫い付けられていますが、このパイルも、色や質感がアメリカ製と異なる印象を受けます。
M1910キャンティーン本体です。
その名が示すとおり、第一次世界大戦当時から使われていた古株の装備品です。
素材は本体・キャップともにアルミ製です。
素材はプラ製やホーロー引き等、ごく少数作られた物を含めるとバリエーションは多岐に渡りますが、1943年頃から、ステンレス製に取って変わられていきました。
アルミのキャップは鎖で本体に連結され、脱落防止対策も万全です。
キャップの裏にはコルク栓が付いており、水漏れ防止になっています。
実物だと状態によってコルク栓が劣化していたり、剥離して無くなっていたりしますが、この個体では良好な状態で保存されていました。
飲み口は適度に広く、使いやすいです。
アルミ製キャンティーンの特徴のひとつが、側面の溶接跡です。
のちのステンレス製では水筒中央に連結跡のリブが付くので、外見上もだいぶ印象が異なります。
こちらはキャンティーン・カップです。
通常、キャンティーン・カップにキャンティーン本体を入れて、キャンティーン・カバーに収納します。
キャンティーン・カップには可動式の取っ手が付いており、保管時には画像のように折りたたんでおきます。
取っ手はバーハンドル式と呼ばれるタイプです。
このタイプはベトナム戦争の頃まで使用されていました。
キャンティーンがプラ製になり、キャンティーン・カバーが浄水剤ポーチ付きのナイロン製になる1980年代のALICE装備の頃になるとワイヤーハンドル式に更新されます。
バーハンドルは回転させて、この突起部分にロック金具を押し込み、L字状に固定して使用します。
バーハンドルを使用状態にしたところです。
しっかり固定してあれば安心して使えますが、固定が甘いと飲料を注いで持ち上げた時に金具が外れて中身が「だばぁ」状態になるので注意が必要です。
このキャンティーン・カップは本体と明らかに異なる素材感で、ずっしりと重く厚みがあり、表面がざらざらした手触りの物です。
恐らく砂型でつくられた鋳物と思われますが、あまり見かけない面白い仕様です。
エッジが丸みを帯びており、底から見るとまるで飯盒のようで、なかなか面白い意匠だなと思います。
こちらはODカラーのM1910キャンティーン・カバーです。
実物中古品ですが、かなり使い込まれており、色落ちが激しいです。
M1910キャンティーン・カバーのODカラーへの更新が完了したのは1950年の朝鮮戦争からで、のちにM1956装備が採用されてからも、主にアメリカ海兵隊においてベトナム戦争中の1967年ごろまで使われ続けました。
外見上の造りはカーキ色の物と全く同じです。
キャンティーン内部にも同様にパイル生地が付いています。
ブリティッシュメイド品と比べると、アメリカ製のほうが各部の縫製がしっかりしています。
キャンティーン・カバーにキャンティーン本体を収納した状態です。
ODカバーが普及する頃には、キャンティーンもステンレス製・プラスチックキャップのタイプに更新されました。
ダブルフックの固定台座は頑丈に縫製されており、ブリティッシュメイドのような危うさは一切ありません。
比較して見る事で、正規製造品と戦時生産品の違いがよくわかります。