今回紹介するのは中国人民解放軍の個人装備のひとつ「65式兵糧袋」です。
日本でいう所の「兵糧」、中国語では「干糧」、「軍糧」と言われる軍用の携行食糧を運ぶための収納袋です。
中国語の記事を調べてみると、「軍糧袋」や「口糧袋」、「干糧袋」等と表記されています。
私は2枚購入したのですが、両方とも裏面が表の、縫製された状態でした。
実用時にはひっくり返して使用します。
裏面なので縫製の様子がよくわかります。
素材は綿幌布製で、初期は土黄色、のちに軍緑色の物が使用されたようです。
袋の両端に板紐が縫い付けられており、これを結わえて封をする作りです。
袋の形状は、抗日戦争中から使われていた物がそのまま受け継がれており、陸・海・空軍各組織ごとに生地の色が異なるものが確認できます。(陸軍はカーキグリーン、海軍はブルーグレー等)
裏地にはタグ・スタンプが確認できます。
この個体は1971年製のデッドストック未使用品です。
使用する為に折り返して表面を出した状態です。
生地自体は厚みがなく、コンパクトに折り畳めます。
広げてみると、画像のように結構、全長は長いです。
袋の口の様子です。
両端とも空いており、前後の区別なく使用できます。
袋の口の部分はそこそこの広さで、容量もだいぶ余裕があります。
実際に米を詰めてみました。
軍糧袋には白米の他にも、乾燥した食物全般を収納したようで、調べてみるとキビ・高粱(こうりゃん)等の雑穀や乾麺を収納したようです。
また、朝鮮戦争参戦の折に兵站を研究した結果、携行糧食として穀物を挽いて粉末にして炒めたものが発明されました。
これは水で練って団子にして茹でたり、緊急時には粉末のまま食べる事も出来たため寒冷地で兵站に難のある朝鮮の戦場では、中国人民義勇軍の兵士に重宝されたそうです。
米を収納した状態です。
月刊アームズマガジン1988年4月号の特集記事を引用しますと、「緊急発動等がかかり背嚢等を用意できない時の装備で、基本装備はそのままだが1.5㎏の米(2日分)の入った袋を2本たすき掛けにして出動します。」との事です。
食糧を詰めたら、袋の両端を板紐で結わえ留めます。
中身がこぼれそうで不安でしたが、実際に扱ってみると、かなりしっかりと結び留める事が出来ました。
たすき掛けできるように、両端を結んで輪っか状にします。
使用感は、以前ブログで紹介したベトナム人民軍の米袋と似たような感じです。
兵糧袋1本で2日分の米、すなわち10合(1.5kg)を詰めています。
袋自体が長いので、ぎゅうぎゅうに詰まった状態にはならず、たすき掛け携行もしやすいです。
実際に着装してみました。
軍糧袋の装備方法は、人民解放軍における当時の記録映像が見つからなかった為、前述の雑誌記事画像に倣っています。
実際に身に着けてみると、兵糧袋2本分、3kgの重量は肩にずっしり堪えます。
実用前は毛布や外套ロールのようなイメージでしたが、実際にはアメリカンクラッカーのように塊をぶら下げたような状態になります。
早駆けをすると兵糧袋が振り子のように前後に揺れるので、なかなか難儀です。
右腕は銃を持を定位置に維持しつつ、左手を兵糧袋に添えて重心を維持しつつ進めば大丈夫です。
個人的に兵隊の格好良さは背中にあると思います。
進撃中の兵士の様子は記録映像でも良く見られますが、とても勇ましい姿です。
手にしている小銃は「56式半自動歩槍」です。
「56半」は中国でライセンス生産されたソ連軍の「SKSカービン」で、セミオートマチック10連発のいささか古い設計の銃ですが、人民解放軍では主力小銃として1980年代中頃まで運用されていました。
56半を持ちゲートルを巻き、ヘルメットを被らず(支給されていない)解放帽姿の士兵の姿は「中越戦争」における一般的な歩兵軍装です。
兵糧袋は戦闘だけではない「生きている兵隊」らしさを演出するには最適な装備品だと感じました。