中国人民解放軍の「95式自動歩槍(自動小銃)」です。
今回紹介する物は、ゴム製の訓練用模擬銃です。
「95式自動歩槍」は、「95式突撃歩槍」や「QBZ-95」とも呼ばれ、中国独自の「87式5.8㎜小口径弾」を使用する中国人民解放軍の主力小銃です。
開発は1989年に始まり、1995年に制式化、1997年から配備開始されており、現在ほぼ全軍に普及している状況です。
中国の小口径弾薬の開発・採用への動きは案外早く、1970年には中央軍事委員会の会合で提起され、1971年3月の研究会議で、小口径銃開発計画が決定されています。
1979年2月、弾薬は5.8㎜とし、開発が開始されます。
1982年7月、開発を急ぐべく、まず「81式自動歩槍」の設計を基に5.8㎜口径に変更した小銃の開発が決定しました。
こうして開発されたのが「87式自動歩槍」です。
樹脂製マガジンの採用、小型グリップ・カバーを使用し、着脱式の銃剣を持つ妥当な新型設計でしたが、実用してみると全長が長い点、重量過多等の問題点が指摘され、ごく少数の生産にとどまりました。
制式銃としては成功しませんでしたが、5.8㎜弾薬の実用の為におおいに貢献したと評価されています。
「87式」の性能が軍の要求に満たなかった事から、1989年に再度5.8㎜弾を用いる小口径銃の開発チームを結成し研究を開始、6年間の開発の後、1995年に「95式自動歩槍」を完成させます。
1997年、「駐港部隊(香港駐留部隊)」の装備として国際社会に向けて公式に存在が公表されました。
87式5.8㎜小口径弾は、諸外国の5.56㎜NATO弾や5.45㎜カラシニコフ弾に比べ、威力・射程距離ともに優れていると中国では公表されています。
人民解放軍における「95式」の評価は、高い耐久性と高い精度があり、製造コストは低く抑えられ、各種アクセサリーも豊富で、全長はコンパクト、重量バランスが良く操作が容易、中距離における威力は十分とされています。
一方で欠点も複数指摘されています。
いわく、「射撃音が近く、耳が聞こえなくなる」「拡張性能に限界がある」「簡易夜間照準器の明るさ不足、また容易に剥がれ落ちる」「光学照準器装着時の位置が高すぎ、快適な照準が困難」「オプションのグレネードランチャーが使いにくい」「射撃時の発射ガスが銃の隙間から溢れ出し、頬付け射撃時に射手の目を傷める」「5.8㎜弾は燃焼カスが多く、作動不調の原因となる」「樹脂製パーツが経年使用で白化し、美観を損ねる」等。
現在、人民解放軍全軍に「95式」の各種バリエーションが配備・運用されていますが、旧式の「81式」バリエーションも運用が続けられており、完全更新はされていないようです。
コッキングハンドルはフロントサイト兼用キャリングハンドルの空洞内に設置してあり、明らかに「FA-MAS」のレイアウトの影響を受けています。
この部品配置は、コッキングハンドルを突出させず、邪魔にならないよう配慮された物と思われます。
反面、この措置により、キャリングハンドル全体が大型になり、結果上部に設置されたフロントサイトが無駄に高い位置に配置され、照準にかかわる各種の不評を生む要因ともなっています。
トリガーガードはフォアグリップとして使えるようデザインされています。
これは人民解放軍では従来、小銃のマガジンをフォアグリップのように握って保持していた運用法を配慮して設計されたもので、人間工学的には右手・左手の保持位置が近すぎ好ましくないとされます。
そのためか、現在普及が進められている改良型の「95-1式自動歩槍」や、海外輸出向けの「97式自動歩槍」では、スマートなトリガーガードに改められています。
そもそも「56式自動歩槍(中国製AK-47)」は射撃により木製のハンドガードが触れないほど加熱する為に仕方なくマガジンをグリップ代わりにする持ち方が習慣化したに過ぎず、「95式」のフォアグリップ形状については無用な配慮だった、との結論のようです。
バレル周辺の構造です。
全体にゴム製の銃ですが、バレル内には芯が入っており頑丈で曲がったりはしません。
フラッシュハイダーは金属製です。
ガスレギュレター等は、なんとなくブロック状に成型されているだけで模型のような精密さはありません。
着剣ラグは突起として成型されていますが、ダミー銃剣は装着出来ません。
照準器はシンプルなアイアンサイトが採用されています。
リアサイトはキャリングハンドルを兼ねたデザインで、既存のブルパップライフル「FA-MAS」の影響を感じるデザインです。
ブルパップ式は照門から照星までの距離が短く、人間工学的見地から命中精度が低下する傾向にあり、「ステアーAUG」や「L85A1」等の既存の銃では低倍率のスコープを標準装備することで欠点を補っています。
しかし「95式」ではコスト面への配慮からアイアンサイトが標準とされ、更にフロントサイトの位置が後ろ寄りに設置された結果、特に照準長が短すぎると指摘されています。
更に、オプションとして光学サイトを運用できるようにスコープマウントを設計に取り入れた結果、各種サイトを搭載すると照準位置が高くなり、当事者たる人民解放軍関係者の記述においても、「照準器の位置が高すぎる為、適切に狙いを定める事が難しい」と評価しています。
フロントサイトはキャリングハンドルと照準位置を合わせる必要から、特に長く突出したデザインとなっており、「95式」の外見上の特徴と言えます。
運用面では、このフロントサイトをぶつけたり、引っ掛けたりし易い点が不評とされています。
フロントサイトガードは円形で、中国製銃器の伝統を受け継いだデザインです。
ゴム製なので、画像のように柔軟性があります。
マガジンハウジングの構造です。
マガジンの装着はAKシリーズと同じ要領で行います。
この訓練用模擬銃ではマガジンの取り外しが可能です。
マガジンキャッチの構造は、ほぼAKそのものです。
マガジン挿入口の様子です。
マガジンの受け部分には、プラ製の別パーツが組み込まれています。
マガジン装着部付近に刻印があり、「武警司令部訓練部監制」と読めます。
訓練機材らしい特徴ですね。
マガジンは実銃の30連マガジンを再現してあります。
5.8㎜弾用のマガジンですが、サイズはAK-47用マガジンとおおむね同じ位です。
マガジンの装着部分のみ、プラ製の別パーツがネジ止めされています。
セレクターはバットストック付近、マガジン後方に位置し、「安全」「単発」「連発」を回して切り替えます。
通常の自動小銃の構造をそのまま受け継いだ結果、この配置になったと容易に推測出来ますが、結果的に片手で操作出来ず、設計の未熟さを感じます。
「95式自動歩槍 背帯(スリングベルト)」です。
黒色の方は市販のレプリカ品で、緑色の方は模擬銃に付属していた物です。
レプリカ品の方は厚手のナイロンと丈夫な金具を使用し、堅牢な作りです。
一方、付属品の方は必要最低限の機能のみ再現された簡素な作りです。
レプリカ品と付属品の最大の違いはフロントスリングフックの形状で、付属品の方は明らかに幅が狭く、細く作られています。
スリングベルトを装着した状態です。
画像は、付属のスリングベルトを使用しています。
リアスリングフックの装着位置は実銃と同じく、バットストック近く、銃の末端に位置します。
フロントスリングフックの装着位置も、実銃と同じです。
画像のように、模擬銃のフロントスリングスイベルは幅が狭く、付属品のスリングベルトでないと装着出来ません。
「95式自動歩槍」と「97式自動歩槍」を比較してみます。
「97式自動歩槍」は海外輸出向けに使用弾薬を国際標準の5.56㎜弾に変更設計した物です。
基本的には同一のデザインであり、重ねてみても外見は殆ど違いがありません。
なお、この「97式」は、中国本土のトイガンメーカー「リアルソード」から発売されている電動ガンです。
キャリングハンドルのレイアウトも同一です。
フロントサイト・リアサイト共に同型で、構えてみた感じも大差ないと思えました。
唯一、大きく異なるのがマガジン周辺の構造です。
「97式」では「M4カービン」に使われているSTANAGマガジンが採用されており、マガジンキャッチも押しボタン式に変更されている為、弾倉交換の操作感は全く異なります。