ベトナム人民軍にて2007年に制式採用された「K07迷彩服」です。
今回紹介する物は、士官用の軍用実物放出品になります。
ベトナム人民軍では、ベトナム戦争以来、長らくグリーン単色の戦闘服が用いられてきました。
途中、何度か試作レベルの各種迷彩服が試験的に導入されましたが、いずれも予算や実用面での問題から制式化はされませんでした。
1990年代に入ると、本格導入を視野に入れた、タイガーストライプ迷彩柄の「K94迷彩服」が導入されたものの、全軍普及には至らず、2003年にはグリーン単色の「K03軍服」が採用されています。
2000年代に入り、地上部隊の近代化を進めるべく、満を持して採用されたのが、このリーフ迷彩柄の「K07迷彩服」です。
現在では全軍に普及完了しており、後継となる「K17迷彩服」と混在している状況です。
「K07迷彩服」には、軍官(士官・将校)用と、士兵(下士官・兵卒)用の細部の異なる2種類のバリエーションがあります。
今回紹介する物は軍官用です。
軍官用としては、K07以外にも、士兵用の「K03軍服(作業服兼常勤服)」に相当する役割の「K08迷彩服」も導入されています。
こちらは生地の質感がK07と異なり、迷彩柄はベトナム戦争当時に「南ベトナム政府軍」や「アメリカ海兵隊」で用いられた「ERDLパターン」に酷似した物です。
同じ迷彩規格のジャングルブーツと共に、将校の自費購入品らしく、映像では目にするものの市場流通は殆どない珍品です。(画像はネット検索より拝借)
迷彩柄の裏面は明るい黄緑色です。
リップストップ混紡生地が使われており、薄手で熱地での使用に適しています。
「K07迷彩服」は、リーフ迷彩柄でデザインはアメリカ軍のBDUに似ており、従来のグリーン単色のシャツスタイルと比べると、機能的で近代化した印象を受けます。
肩にはエポーレットが設けてあり、ボタン留めされています。
前合わせはボタン式で、5個のボタンで閉じます。
ボタンは焦げ茶色のプラスチック製です。
軍官用ジャケットには、カーゴポケットが4個あります。
画像は胸ポケットの様子です。
ポケットの蓋は2個のボタンで閉じられます。
画像は腰のポケットの様子です。
腰には、ウエストを絞る為のタブが設けてあり、ボタン留めにより3段階に調節できます。
ジャケットの裾はわずかに裂きが設けてあります。
動きやすさに影響する物ではなく、完全にデザイン的なアレンジです。
袖には、肘に当て布による補強がされています。
袖にあるボタンは、袖まくりをした際にずり落ちないよう固定する為の物です。
ジャケット内側にボタン留め用タブが内蔵されています。
画像のようにタブを使い、袖をまくり固定できます。
手首はカフスボタン式で、2段階にサイズ調整できます。
脇には、通気口と思われるスリットが設けてあります。
いかにも熱地向け被服らしい工夫で面白いです。
ジャケットには「複合型襟章」「陸軍胸章」「陸軍臂章」が取り付けてあります。
襟章は、「K08制服」と共に導入された「K08襟章」です。
階級は「陸軍歩兵少尉」です。
襟章の取り付け金具はヘアピン式です。
これが軍官用だからなのか、新型の仕様なのかは知識不足でわかりません。
従来の軍服と異なり、襟には襟章取り付けようのホールがあらかじめ設けてあります。
襟章を取り付けた際の表面と裏面の状態です。
ピンを通す為のホールのおかげで、襟章の脱着が便利になりました。
開襟状態の襟章の様子です。
リップストップ生地と迷彩柄も相まって、アメリカ軍の迷彩服のような垢抜けた雰囲気を感じます。
第1ボタンを閉じる事で、折り襟状態でも着用できます。
戦闘訓練の映像や画像では、割りとよく見かける着こなしです。
襟の背面の形状です。
左袖上腕部には、ベトナム人民軍を示す臂章が縫い付けてあります。
「K07」採用当初はこの臂章は無く、また初期のモデルでは赤色の台座に黄色糸の織り出しワッペンが用いられていました。
ジャケットの左胸には胸章が縫い付けてあります。
ジャケットの右胸には名札用ベルクロ台座が縫い付けてあり、取り外し式のネームテープが付きます。
未使用実物なので無地ですが、実際の運用では刺繍あるいはペイントによる指名の記入がされています。
名札はベルクロ台座が縫い付けてあり、容易に取り外す事ができます。
K07迷彩ズボンです。
ズボンはアメリカ軍のBDUに似ていますがカーゴポケットは無く、左右のスリットポケットと、尻側に蓋つきのポケットが2箇所設けてあります。
ズボン側面は、カーゴポケットが無いのでシンプルな印象です。
中央に、裾をまくった際に半ズボン型に固定する為のボタンが縫い付けてあります。
膝の辺りに、補強用の当て布があり、耐久性を高めてあります。
ズボンの裾は筒状です。
裾には、ばたつかないようにまとめる為のボタンが取り付けてあります。
ボタン使用時には画像のように、足首付近で固定します。
ウエスト周りの正面形状です。
ベルトループと前合わせ、両サイドに物入の付く、オーソドックスなデザインです。
ウエストベルト周りの背面形状です。
臀部に二か所、フラップ付き内蔵ポケットが設けてあります。
前合わせ、ファスナー部分は軍用衣類ではスタンダードなボタン留め式です。
ズボン内側の様子です。
内側に製造工場のタグが縫い付けてあります。
このタグは軍正規工場製造の官給品を証明する物で、2015年製とわかります。
ズボン側面の形状です。
サイズ調節機能とベルトループが設けてあります。
ズボンのタグが内側にあります。
サイズ調節タブは、ベルクロで任意の位置に固定する作りです。
両サイドにあるスリットポケットの様子です。
尻ポケットにはフラップがあり、ボタン留めできます。
熱帯地域ならではの工夫でしょうか、股の位置に通気用のスリットのような物が4個あります。
このズボン、裾をまくって半ズボン型にする事ができます。
画像はまくった袖がずり落ちない様に位置を固定する為のタブを留めるボタンです。
タブはズボン内部に縫い付けてあります。
ボタンの位置に合わせて、ズボンを等間隔でまくり上げていきます。
巻き終わったら、タブを持ち上げてボタン留めします。
半ズボンにした際の形状です。
上下とも袖まくりをすることで、気候に合わせた着こなしが出来る、便利で珍しい構造です。
ブッシュハットと官給サンダルを組み合わせて、ラフな着こなしの陸軍下級指揮官です。
これなら暑いベトナムの夏にも最適ですね。
K07迷彩服の着装状況です。
米軍のBDUに似たデザインで動きやすく、薄手のリップストップ生地で着心地も良好です。
帽子はK07と共に採用された共生地の物で、生地の違いにより軍官用、士兵用の区別があります。
画像の物は軍官用です。
「K07」から取り入れられた徽章類は、デザインや配置から中国人民解放軍の影響が見られます。
ウイングマーク型の胸章と名札、袖のワッペン等の要素は「人民解放軍07式作戦服」に類似する要素です。
ズボン用ベルトは、2000年代にはビニール素材とアルミ製バックルを組み合わせたモデルが使われていました。
2010年代になってからは、グリーンのナイロン製ベルトが登場し、現在はほぼこちらに更新されています。
新旧どちらのベルトも、ズボンのベルトループに問題なく通せます。
画像はビニール革製装備ベルトの着装状況です。
このベルトは1980年代から若干の改修を受けつつ支給が続けられた装備品です。
主に通常勤務時に見られるもので、戦闘訓練ではアメリカ軍スタイルのピストルベルトが使われています。
靴は、軍官、士兵共にゴム底のズック靴が愛用されています。
軍官向けにジャングルブーツに似たデザインの「K08コンバットブーツ」や、制服に合わせた「黒革短靴」もありますが、普段履きや戦闘訓練ではほぼズック靴のみ見られます。
訓練で見られる、軽装の下級指揮官です。
身に着けているのはチェストリグのみ、ヘッドギアはベトナムと言えばコレ、な印象のある「ムゥ・コーイ(サンヘルメット)」です。
武装は「K56小銃」、中国製56式自動歩槍のベトナム製コピー生産品です。
訓練映像を見る限り、前線指揮官も士兵と同じく小銃で武装しており、拳銃の携行は車輛乗員等に見られます。
K07の軍官用と士兵用の比較です。
一見すると同じに見えますが、使われている生地、ポケットの数など細部に違いが見られます。
各種ワッペンは階級にかかわらず、初めから縫い付けてあります。
袖の形状に大きな違いはありませんが、軍官用には袖まくりした際に留める為のタブ内側にあり、その為のボタンが縫い付けられている点で士兵用と区別できます。
上腕部に縫い付けてある陸軍臂章は同じ物が使われています。
肩のエポーレットの様子です。
一見すると同じに見えますが、軍官用と違い、士兵用はエポーレット中央が縫い留められており、ボタンは単なる装飾です。
ジャケットの外見上の一番の差異であり識別点がポケットで、軍官用は胸と腰の合計4か所、士兵用は胸のみ2箇所のカーゴポケットが設けてあります。
ジャケットのカーゴポケットはマチがあり容量を増やす工夫がされています。
士兵用は単純に袋状の縫製ですが、軍官用はメッシュ素材で作られており、通気性にも配慮された凝った作りです。
裏地の様子です。
単色なので生地の違いが分かりやすいと思います。
士兵用は中厚の混紡生地で、軍官用は薄手のリップストップ生地が使われています。
背中の様子です。
裁断自体は両方ともに大きな違いは見られません。
腰回りの付属品は大きく異なり、軍官用はウエストを絞る為のタブが設けてあります。
一方、士兵用は弾帯やベルトを固定する為のベルトループ・タブが設けてあります。
スタイル重視の軍官用、実用性重視の士兵用と言う事かな、と考えられます。
ジャケットの裾は、士兵用は末端まで縫い付けてありますが、軍官用はほんの僅かだけ裂きが設けてあります。
機能性には影響は殆どなく、デザイン的な差異を考えての処理と思われます。
ズボンの比較です。
基本的な形状はほぼ同じです。
ウエスト、ベルトループの様子です。
ウエストはサイズ調整機能が設けてありますが、構造に違いがあり、軍官用はベルクロ留め、士兵用は内蔵タブとボタンによる固定となっています。
利便性ではベルクロ式の方が優れているように感じます。
ズボンには両方とも膝当てが重ね縫いされています。
また、ジャケットと違い、ズボンには軍官用・士兵用ともに裾をまくって半ズボンとして使用する為の固定タブがあり、留めボタンが縫い付けてあります。
ズボンの裾は、バタつかないようくるぶし付近でボタン留めできる作りです。
ズボン内部に縫い付けてある、裾まくり時の固定用タブの様子です。