今回のBOOKレビューは、文春文庫刊、司馬遼太郎・著による小説「最後の将軍」です。
この本は、徳川幕府最後の将軍、徳川慶喜の生涯について書かれた小説です。
著者は歴史小説の分野ではあまりにも有名な司馬遼太郎氏です。
今回、初めて司馬遼太郎氏の小説を読んでみました。
司馬氏の作品にはかねてより興味はあったのですが、何冊にも渡る印象が強くて、なかなか手が出せずにいました。
その点、この「最後の将軍」は、一冊完結だった為、手にとってみた次第です。
読了後の感想から言うと、長編小説でも人気のある作家だという事が実感できた、という感じでしょうか。
最後のページをめくった後、「もっと読みたい!」と思わせる面白さでした。
どこか、俯瞰視点で書かれた印象があって、それが小説の枠を超えてあたかも“事実”を学んだかのような説得力を持ち、その事が俗に「司馬史観」と言われる印象に繋がっているのかな、と納得した次第です。
この小説を読んでいると、本人の意思に関わらず、周りの人々(初めは父親、やがて攘夷派の志士達)に勝手に期待され担ぎ上げられ、やがて失望され恨まれる様子が度々描かれています。
一方で、慶喜自身もまた、自分の信念に揺らぎなき生き方を貫いており、やはり大人物には違いないのですが、なんせ己の心情に違わければ、一旦開戦の大演説をぶち上げて士気が最高潮に達した幕府軍を前に、翌日にあっさり出陣を取り止めたり、大坂で将軍自ら陣頭指揮しての一大決戦を企図しながら兵を置き去りにして一人江戸へ帰り謹慎に入るなど、あまりにも無様かつ不可解な行動を平然と行いうる所が、当人の評価を二分三分させているのだと感じます。
ただ、歴史という視点で見れば、慶喜がひたすら天皇に恭順する姿勢を貫いた事で、泥沼の内戦状態を回避し、速やかに富国強兵に移れたのですから、日本国の行く末に多大な貢献をしたとも言え、その点において徳川慶喜は間違いなく偉大な将軍であったと言えましょう。
考えてみれば、徳川慶喜という人物、実際にはその前半生を「一橋慶喜」として生き、77歳まで生きた人生の中で、徳川十五代将軍として存在した時間はせいぜい2年ほど、倒幕運動が起こり大政奉還によって徳川幕府が消滅するまでの “幕末” と呼ばれる時期すら、5年程度という事を思うと、なんともいえない感覚を覚えます。
一冊で完結する、比較的短い小説でしたが、その内容は読者に歴史を知る快感を感じさせてくれるに充分な物だったようです。
俄然、司馬遼太郎氏の著作への興味が沸いてきました。
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